クロモンこども食堂

地域のこども食堂だからできること

2024.03.31

コロナ禍で変わった食支援とお母さんからのSOS

クロモンこども食堂の薄葉さんは、品川区で古民家カフェを経営する側ら、そこで毎週会食でこども食堂を開催していました。建物老朽化のため店舗が取り壊しになり、主となる活動拠点は失いましたが、同じ地域での支援を継続する必要性を強く感じ、町会や近隣の方々の協力を得て、定期的にフードパントリーを変わらず開催しています。
フードパントリーをするきっかけとなったのは、お母さんたちからのSOSだったそう。コロナにより収入が激減したり失業の心配も。学校も一斉休校で給食もなくなり、生活の不安を抱え困っているお母さんたちから薄葉さんのもとに相談がくるようになっていたのです。
「フードパントリーという言葉があっているかもわからないうちに活動を始めました。」(薄葉さん)
 パン屋さんから売れ残ったパンを譲り受けることができ、こども食堂利用者に呼びかけて配ってみると、想像以上に喜んでいただけました。食材の無料配布のニーズとその手ごたえを感じた薄葉さんは、すぐに食材配布を継続することを決め、SNSを通じて積極的に支援協力の呼びかけを行いました。給食で使われなく余った卵が手に入ったときも、たくさんのお母さんと子どもたちが鍋やザルをもって集まって来ました。回を重ねるごとに「どんなものが必要なのか」が少しずつわかるようになり、その情報を品川区役所と社協とも共有し、しながわ子ども食堂ネットワーク事務局を通じて企業にも協力を要請し、品川区内全域でフードパントリーが展開できるよう働きがけたのです。
 

こども食堂でつながる家庭

クロモンこども食堂では、Facebookや口コミ、しながわ子ども食堂ネットワークを通じて情報を発信し、お弁当配布やフードパントリーを中心に活動をしています。個々の家庭とは、SNSを活用したコミュニケーションを大切にして、それぞれの生活環境を把握できることにより、支援体制に優先順位をつけることができ、目的ごとにグループ分けをした利用者管理ができるようになりました。
 
「フードパントリーをしていると、お母さんの体調が悪いとか、どのような症状があるとか、家庭内のことや悩みごとを話してくれる子もいます。」(薄葉さん)行政や専門の相談機関では、親や周りの大人から、子どもの支援に至るケースはあるが、こども食堂やフードパントリーなどの食を通じた支援では、子どもたちからの情報で親の支援につながるケースがあるんです。
 ―子どもを見守るための連携プレイ
  支援を行っているある家庭では、父親の前では安心して満足な食事をとることができず、あと1%体脂肪が減ると、児童相談所の強制保護対象になってしまうほど痩せている子どもがいました。「母親から食事の援助の相談があり、父親がいない時間帯に食材を渡すことに。クロモンこども食堂だけでは難しいので、他のこども食堂にも協力してもらいながら、毎日3食分のお弁当を渡していました。」(薄葉さん)現在も、子ども家庭支援センター、学校の先生、地域の病院、学童、こども食堂が連携しながら、体重は減っていないか、体に痣はないかなどの見守りをおこなっています。「子どもたちの見守りは、学校・行政だけでは難しい。食支援を目的とした子ども食堂ということで、安心してなんでも話してくれる家庭もあります。町にいるおせっかいなおばちゃんというポジションで、玄関の内側に入って、話しを聞いて、そこでの話を専門機関と共有しながら、必要な部署につなげ、問題を少しでも早く的確に解決できるようにしています。」(薄葉さん)
 

地域で暮らす人々の「そば」にあるこども食堂

薄葉さんの生まれ育った東京都品川区北品川は、子どもの頃から、商店街を歩いていると声をかけてもらえたり、お菓子をくれたり、常に大人たちが子どもを見守っているようなあたたかい町でした。
今でも歩いていると声を掛けられ、当時のことを話してくれるそう。「昔は近所の子どもや他人の家に気をかけることは当たり前だったし、町の役割(コミュニティー)だったと思う。」(薄葉さん)

  そんなコミュニティーで育った薄葉さんが今の活動を続けるのは大義名分などではない、シンプルな理由。目の前で困っている人がいたら助けるだけ。「地域の一員として、町のお母さんたちのほんの一部でもお手伝いならできるなら、というゆるい気持ちで活動しています。なんとしてでもこうせねばという思いはありません。目の前の出来事に対して一つ一つの積み重ねで、たいしたことをしている意識はないんです。」(薄葉さん)
  現在、地域の中で互いに声を掛け合い「共助」するコミュニティーは減りつつあります。こども食堂は、食を提供するだけでなく、そういったコミュニケーションが減った地域の人々を繋ぐ役割も果たしています。薄葉さんの「地域で育った経験」は、現在では「地域のおばちゃん」として活かされ、こども食堂に集う人々への温かい見守り活動へとつながっています。
―こども食堂の強み
 個別支援では、専門家でも資格もないからこそ、言えることがあるという薄葉さん。「じつは子育ての経験もない私が、地域のおばちゃんとして、いつものエプロン姿で思ったことをそのままストレートに発言しています。区役所の担当者や専門家の方々には、それぞれの立場もあって最後の一線を越えての発言は難しい。私には資格がないからこそ、思ったまま意見を言うことができる強みがあると思っています。」(薄葉さん)
相手にぐっと近寄った支援をすることができるのは、身近で地域に住むおせっかいな世話を焼くおばちゃん(=こども食堂)だからこそ。「助かったーという意識・体験を広げることが大事だと思います。そうすることで、SOSを発する勇気につながる。『困っている』って言うことはすごく勇気がいることですよね。助けてって言っていいんだ、って思ってもらいたい。助かった人はまた、誰かを助けることにつながるかもしれないですし、次に助けなきゃいけない人のためにも「私は助かったんだよ」って声に出して欲しいです。そういう意味では「こども食堂」という名前は、ものすごい大きな力を持っていると思います。」(薄葉さん)
 

こども食堂が目指すのは「大人の意識改革」

薄葉さんには印象に残っている出来事があります。こども食堂を利用していたお母さんから「息子がうーさん(=薄葉さんの愛称)のハンバーグをすごくおいしそうに食べておかわりしていたんだよね。あんな顔みたら、私ももっと作ってあげなきゃと思ったんだ。」と。こども食堂は安くてごはんが食べられるラッキーなだけの場所ではなくて、大人の意識も少しずつ変わるきっかけになるといいなと薄葉さんは言います。「パン一枚でもお母さんに焼いてもらったら、子どもにとってはきっと100倍美味しいと思うんです。」
私たちが暮らす町が、子育てする家庭に優しくあって欲しい。おとなりさんに一言かけられるお付き合いがあったらこども食堂なんて必要なくなると思っています。本当はこども食堂なんて必要ない社会になって欲しいんです。社会を構成する私たち大人の意識。それが軌道にのるまでは、つなぎとしてこども食堂を頑張らなきゃって思います。」(薄葉さん)
クロモンこども食堂は今後、他のこども食堂とも連携しながら、こども食堂が会食をする日以外にお弁当を届けるなど、包括的な食支援活動を行う予定です。
地域の中のこども食堂にしかできないこと、こども食堂だからできることがあることを教えてくれた薄葉さん。こども食堂やフードパントリーなどの食を通じた支援は、地域に暮らす人々が、より安心して豊に暮らすことができる「居場所」となりつつあります。
 
 

2023年度ver.
~昨年との活動の変化についてお伺いいたしました。~



 

◎主な事業内容
・こども食堂(会食)
・フードパントリー、弁当配達
・個別相談の受付 等
◎活用している資金源 
厚生労働省ひとり親家庭等子どもの食事等支援事業(令和4年度)
品川区子ども食堂推進事業補助金
品川区社会福祉協議会運営助成金 
◎活動拠点 
東京都品川区北品川一丁目
東京都大田区西糀谷四丁目
◎URL
クロモンこども食堂Facebook