地域のつながりを生かし連携で見守りの目を増やす
あんだんて設立の原点
原発事故による風評被害があるなか、福島県の食材の良さ、安全性を発信したいと高橋さんとレシピを作成、石巻や南三陸などでお料理を通し被災地支援を行うとともに福島県原発地域から避難されているご家族と一緒に調理を行う支援を始めました。様々な人の悩みを聞いていくうちに、障がい者というボーダーから外れた人たちの生きづらさ、主に子どもの大変さ
に気がつきます。こども食堂に関心を持つようになっていた2018年、ふくしまこども食堂ネットワーク代表・江川さんに誘われ、「らふみ~るこども&みんなの食堂」をはじめました 。
「安心安全な野菜そのものをいかした甘味や香り、新鮮なお野菜のおいしい味が子どもたちには伝わります。そういう味を知らない子どもたちにはしたくないので、野菜そのものの味を生かした味付け、科学調味料を使わないお弁当作りをしています。」おいしい地元の農産物をつかったお弁当は、地域への誇りにもつながります。また、豊かな食体験を通して、子どもたちの多様な選択肢にもつなげています。「いつか大きくなったときに調理人になりたいのに、科学調味料の味しかわからないようになってほしくない。えぐみ、にがみ、しぶい、からい、そういう味がわかる、素材の味がわかるようになってほしいと思っています。」(山本さん)
活動を続けるなか、JAとの連携や地元農家との連携が生まれました。そのおかげでお野菜は、きちんと検査された地元の新鮮なお野菜を手に入れられるようになっています。農家からは、畑の肥やしにして捨てていた野菜が役に立って嬉しいという声があがっています。「いただいたお野菜は新鮮だからやっぱりおいしい。季節で使える素材があるというのは大変ありがたいですね。」
お野菜の本来の味を生かした料理は子どもたちにも人気だと山本さんは言います。「にんじん嫌いな子と一緒ににんじんピラフをお釜で作ったことがありました。できあがったときお釜を覗いたこどもたちは「うわ~!宝石のご飯だ~」って。周りの子と一緒におかわりもしていました。」(山本さん)
子どもには自信の、大人には安心の「大丈夫」を
こども食堂「らふみーる」では、子どもたち自身が調理することも大事にしています。
「小学校1年生の子が来た時に、卵焼きをいつも作らせるんです。卵に指が刺さっちゃっても「大丈夫大丈夫」、黄身が割れちゃっても「混ぜなくて済むんだからいい」とか言いながら。そうするとおうち帰って、お料理を手伝うんです。」(山本さん)
ある日「おばあちゃんがお料理をつくるのが大変そう」だと明かしてくれた子どもがいました。そこで山本さんは7個卵焼きをその子に作らせ、お弁当に持たせることにしました。卵焼きを1個だけ失敗してしまい落ち込む子どもに対し、「7個のうち6個も成功したじゃん!たった1個失敗したのなんてなんてことないよ大丈夫」と声をかけます。その子のお父さんから「仕事が遅く終わったので、お弁当本当に助かりました。」とメッセージが。山本さんは「サラダと卵焼きはその子が作ったから、たくさん褒めてあげてね。」と伝えました。
子どもに料理から片付けまですべてやらせてあげることで、子どもは家でも手伝うようになり、自分で作る力を養います。子どもの手料理を食べた家族はほっと一息つき子どもを褒めるという、好循環にもつながっています。
山本さんの「大丈夫」は大人にも投げかけられます。
ひとり親でパニックになってしまう方には手をとって「今日も来てくれてありがとうね」「大丈夫だった?」「気を付けて帰んな~」と声をかけます。安心して思わず涙が出そうな声掛けをしてくれることで、「楽になりました」と安心して帰って行かれるのだそう。
「不安をあおるようなことをされて大変大変ってみんな言うんですけど、でもここにきたときは不安をあおるのではなく、「大丈夫なんだよ」「安心していいんだよ」と言っています。」(山本さん)
行政、地域の弁護士、先生との連携
福島県は食に対しても子ども食堂に対しても協力的だと山本さんは言います。しかしその連携は最初からあったものではありません。ふくしまこども食堂ネットワークとして「子ども食堂をもっと増やしたい」と働きかけたのがきっかけです。県は「子ども食堂スタートアップ事業」を創設、助成金を出してくれました。白河市では活動のチラシを市の広報誌と一緒にポスティングしています。必要だと考えたことを行政に伝え働きかけることで、協力体制が育まれています。
こうしたつながりは行政に留まりません。山本さんのもとに、30代で脳血栓になってしまい、左半身不随になってしまった方から相談が入りました。30代のため介護保険は使えず、不安で落ち込んでいた方に対し、「訓練して運転できるようになった人もいるし大丈夫だよ。」と声をかけます。そしてロータリーで知り合ったお医者さんに今回のケースはどうなるのか意見を仰ぎ、ハローワークにつなぎました。また、離婚調停に入るという方には「無料相談会があるから、まずはそこで相談してから考えな。私が知っている弁護士さんだったらその後に連絡してあげるから。大丈夫。」と声をかけます。地域とのつながりを活かし、むやみに介入せず、その分野のプロにつなげることを大事にしています。
連携にあたり重要になっているのが、各家庭の情報をまとめた「利用申込書」です。ふくしまこども食堂ネットワークの県南地域では、共通書式の「利用申込書」を使い、各家庭の情報を保管しています。きいた内容を都度「利用申込書」に追記していくことで、行政や相談員から相談が来たときに、適切につなげることができています。
「(気になる子どもが)やっぱり相談員に相談してて。相談員が「この支援品ひとつもらえませんか」と聞いてきたので、次に不登校の子に面談いくときに持ってってあげなと。そのかわり、その子の情報全部教えてね、と伝えました。すると、次にあったときに、「すごく喜んでました」と、そこから連携ができます。」(山本さん)
「利用申込書」を通してどのくらいの人が利用している、この地区は何人登録しているといった情報を把握できるようにすることで、来年度予算をたてるときにこども食堂が市に働きかける材料にもなっています。
ふくしまこども食堂ネットワーク県南の連携力
とくに白河市はこども食堂に熱心な分、新しい団体が立ち上がる際は慎重だと言います。そんなときに実績のある山本さんが市や区に紹介したり、活動が軌道にのるまで慣れている人たちで手伝ってあげることで、こども食堂が地域に定着するお手伝いをしています。
そのほか助成金の申請書の書き方や利用者へのメールのテンプレート等、活動のノウハウを共有できる環境を整備しています。寄贈食品の受入では、多数の拠点に送ってもらうのが大変かつ、管理しきれなくなってきたため、大型の冷凍庫を導入し、ネットワークの中で拠点をあんだんての一か所にしました。
県南地域では、複数のこども食堂を利用される方を「子ども食堂ジプシー」と呼び、特に制限はもうけていません。別の団体から相談された事案が、あんだんてでも抱えている事案だったことが判明するなど、別団体にアドバイスする機会や、見守りのスキルアップにもつながっています。
「大変な時は大変なんだから、うまくやれば8食なんだから、いいよー。子ども食堂はみんな同じ思いでやってるんだから、みんなそれでいいでしょって。」(山本さん)
見守りの目の広がりに向けて
今後さらに県南での見守り体制を強化していくには、傾聴力が大事だと山本さんは言います。
「言っていいことと悪いこと、良かれと思って言ったことが傷ついちゃったとか、そういうのありますよね。小さな親切余計なお世話になってしまう。」(山本さん)
入り込みすぎず、そうなってしまう前に専門機関に連れていく必要があります。また、市内の無料弁護士相談会などの情報を団体が把握しておくことも必要です。
「こうした活動は自分一人では絶対に無理、連携が大事です。いろんな人の知恵を借りてやっていかないとだめだなと思います。そのためにコミュニケーションをとっています」
「子どもたちもここに来るときは、申し訳なさそうなんじゃなくて、ここに来るのが楽しみというようになってほしいですね」(山本さん)
県南地域、そして福島という重層的なネットワークを通し、子どもの見守りの目を広げる活動を続けています。
2023年度ver.
~昨年との活動の変化についてお伺いいたしました。~
◎主な事業内容
・こども食堂・・・らふみ~るこども&みんなの食堂
・きららかサロン・・・第3の居場所。カラオケコミュニケーション教室、パステルアート教室、折り紙・つまみ細工教室、お料理教室、笑いヨガ教室、パーソナルカラー教室、陶芸教室など。子育て相談室。
・若者の居場所ユースプレイス県南・・・安心してなんでも挑戦できる新しい若者の居場所。
・児童クラブらふみーる・・・子どもたちの安全・安心を第一にのびのびと過ごすことができる場所。
学校の宿題など、学習面もサポート。収穫体験・食育料理体験・宿泊体験教室など。
◎活用している資金源
白河市こども食堂応援補助金
ふくしま未来研究会
厚生労働省ひとり親家庭等子どもの食事等支援事業(令和4年度)
キユーピーみらいたまご財団
ファミリーマート助成金
ふくしまのこども応援助成金
緊急コロナウイルス組織基盤整備事業
福島県生活困窮者支援事業
福島県こども食堂緊急支援事業
◎活動拠点
福島県白河市高山西162-34
◎URL